「第2回 はじめての海外文学スペシャル」に登壇した翻訳者のスピーチをまとめました。


選書:『ゴーン・ガール』(上下)

(ギリアン・フリン著/中谷友紀子訳/小学館文庫)

選者:越前敏弥

タイトル、普通だと「失踪してしまった女の子」ですが、gone にはいろんな意味があって面白いです。例えば、「アタマがイッちゃってる」なんて意味もあります。

ストーリーは、ラブラブな理想の夫婦に見えるふたりのうち、妻が突然、行方不明になってしまって夫が探すのですが、探す過程で、妻がまさに gone な人だとわかってきて、夫はそれでも探すのか、と思っていると、実は夫もとんでもない人だとわかって……というもの。

 

ミステリの世界では「イヤミス(イヤなミステリ)」というのですが、これは、世界イヤミス史上最高にイヤな作品だと思います。イヤミスは、人間がいかにイヤなものかを突き詰めている傾向があるので、読むと、こんなイヤな奴らがいたら、自分のほうがマシだ、と思えてきます。

 

映画もありますがオチが全然違って、(本のほうが)もーっとイヤ度が高くなっています。

みんなに読んでほしいけど、おすすめしないのは、これから結婚しようっていうカップル。

ただし、お互いにこれを読んでも嫌いにならないで、信頼していられたらその愛は本物です。

 

クリスマス、愛を確かめあう意味で贈り物にしてもよい本です。ぜひ皆さん買ってください。

 

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選書:『二都物語』(上下)

(チャールズ・ディケンズ著/池 央耿訳/光文社古典新訳文庫)

選者:河野万里子

 パリ・ロンドン(二都)の物語です。

秋の総選挙の時に「三都物語」なんて構想があったのも、この本のタイトルをもじったものというくらい、とても有名な作品であることを若い方々にも知っていただきたいです。ミュージカルやマンガでフランス革命を知って、興味を持っていらっしゃる方には、長いけど引き込まれて読めること請け合いです。

 

・かつてバスティーユ牢獄にいたワケありの老人

・その老人の娘で、金髪の清らかな美女

・家柄も国も捨ててイギリスに渡った青年貴族

・頭はすごく切れるのに酒浸りの弁護士

・場末の宿屋の亭主とおかみ

 

これら個性的なキャラクターの運命が絡み合っての、クライマックスがフランス革命という物語が、大変にドラマチックで、映画のように楽しめます。

また、一度方向が定まると、セーブが効かなくなる民衆の姿などはおそろしいほどで、昨今のアジア情勢などを鑑みると、現代の日本人である私たちも、大いに考えさせられるお話です。

 

とはいえ、何といっても胸打たれるのは、究極の恋物語、愛の物語でもあることです。ディケンズの個人的体験に裏打ちされているらしいと知って、いっそう余韻が深くなりました。

 

今回、出だしの文がとてもかっこいい池さんの訳である光文社版をおすすめしましたが、新潮文庫版は、原著初版時の挿絵がすべて収録されているので、当時の雰囲気が味わえるのが素敵です。

 

海外文学はじめてじゃないよ、という方も、未読であればぜひおすすめしたい作品です。

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選書:『ジョージと秘密のメリッサ』

(アレックス・ジーノ著/島村浩子訳/偕成社)

選者:こだまともこ

ジョージは名前の通り、男の子として生まれてきていますが、本人はずっと女の子だと思っていて、クローゼットの底に女の子の服を隠していたりします。女の子としての名前はメリッサだけど、それは服と一緒に隠さなければならないものになっていたのですが、学校でお芝居をしたのがきっかけで、「ありのままに生きていい」と思えるようになる物語です。

 

児童文学で、トランスジェンダーをテーマして書けることに、大変な衝撃を受けました。トランスジェンダーはYA(ヤングアダルト)の分野だと思っていたし、小さい子が、性の不一致で深く傷つき、悩み、苦しんでいることは知っていたけれども、この作品は翻訳もよく、トランスジェンダーの問題を児童文学で見事に描ききっていて、いい意味でのショックだったのです。作者のアレックス・ジーノ自身がトランスジェンダーであるという、経験を土台にして書かれていることが、この作品の成功にひじょうに大きくプラスになっているのではと思います。

 

作中の「お芝居」というのが、今回、さくまゆみこさんがお選びになった、『シャーロットのおくりもの』(E.B. ホワイト著/さくまゆみこ訳/あすなろ書房)で、この作品は、アメリカ児童文学の古典と称される、児童文学者の必読書です。「お芝居」として登場することで、さくま訳の名文がちりばめられ、底力となって作品世界を支えています。

 

自分の訳で恐縮ですが、布施由紀子さんが選んでくださった『スモーキー山脈からの手紙』(バーバラ・オコーナー著/こだまともこ訳/評論社)は、心に傷を負った3人の子供たちと、ひとりのおばあさんが、スモーキー山脈のモーテルで出会って奇跡が起きる物語。こちら、一章まるまる某私大付属中学普通部の入試問題になりました。ことほど左様に、海外児童文学は、お子様の受験にも役立つのでは!

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選書:『カステラ』

(パク・ミンギュ著/斎藤真理子&ヒョン・ジェフン訳/クレイン)

選者:斎藤真理子

韓国の映画やドラマは知ってるけど、文学となると「あるの?」って反応が出て、なじみ薄い感じですが、あります。

 

東京ではかなり韓国文学も置いてくれるようになりましたが

先日福岡に行きましたら、とても大きな本屋さんにもそもそも海外文学の棚が二つしかありません。

目の届く範囲にはもちろん英米独仏、ちょっと下に魅惑の南米文学、その程度。

もちろん韓国文学なんて影も形もありゃしないのです。でもこういう場合、棚の一番上の端っこや一番下の端っこにあるということを経験から知っていますので探して行きました。そしたらやっぱり、一番下の端っこにひっそりと「アジア文学」があり、アジア人は実は世界で一番多い人口を誇っているのに、店頭では4冊(!)でしたが、そのうちの1冊としてけなげに売られているのが、これでした。「第1回 日本翻訳大賞」大賞受賞作でもある本作です。

 

短篇集です。

初めて読む知らない国の文学を読む場合は短編集がいいんじゃないかと思うんです。

例えば味の想像がつかないケーキ(「わさび風味のザクロチーズケーキ、おからキャラメリゼのせ」みたいなの)を、ホールで買ってしまうと、万一まずい、いえ、口に合わない場合

完食できずに持て余してしまいますが短篇集なら、詰め合わせなので、試食できます。

あんまり好きな味じゃなかったら、お父さんにあげてしまうこともできるわけです(ごめんねお父さん)。

 

また、選書には入れていませんが、『アオイガーデン』(新しい韓国の文学シリーズ)(ピョン・ヘヨン著/きむ ふな訳/クオン)も短篇集でおすすめです。

『カステラ』はおもしろいおじさんが、『アオイガーデン』は美しい女性が、それぞれ著したものですが、どちらもものすごく個性的。「カステラ」はぶっ飛んだ発想力、「アオイガーデン」はグロテスクな美しさでフツーに飽きた方におすすめです。

 

アジアの小国の小説を読むことはとても大事なことだと思っていて、彼らの物語から、彼らの気持ちを知ることで、私たちがどうしてこのような近代化を歩んできたか、考えるきっかけをつかめるのではないかと思っています。

 

何より、韓国作家は想像力に体力があります

 

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選書:『ちびドラゴンのおくりもの』

(イリーナ・コルシュノフ著/酒寄進一訳/国土社)子供向け

選書:『やし酒飲み』

(エイモス・チュツオーラ著/土屋 哲訳/岩波文庫)大人向け

選者:酒寄進一

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実は、子供向けと大人向け、各1冊ずつ紹介するんだと思ってしまい、2冊おすすめします。

 

まずは子供向け。

『ちびドラゴンのおくりもの』は自分の仕事ですが、刊行から30年くらい(1989年)で45刷されてまして、子供たちに圧倒的に支持されている本です。小学校あがったくらいの主人公・ハンノーが、学校になじめなくて、もやっとした日々を過ごしているところへ、自分の国になじめず人間の国にやってきたちびドラゴンと友達になり、お互いの「できること」を教え合うと、それぞれの居場所に戻ったときに、まわりのみんなにできないことができる、というので称賛されて、ハッピーエンドという物語です。

挿絵はいまや絵本界で大家となられた伊東寛さんの若かりし頃のお仕事でもあります。

(原画をお持ちくださり、会場にて希望者は閲覧できました)

 

で、本命の紹介です。『やし酒飲み』!

表紙に書いてありますが、「十になった子供の頃から、やし酒飲みだった」男が、「死んだ自分専属のやし酒造りの名人を呼び戻すため「死者の町」へと旅に出る」。西洋的に言えばファンタジー。でも舞台はアフリカ。

 

ここで、アフリカからの仲間をご紹介します。ピグミーの精霊です(100年くらい前の木彫で、本物!)。

 

精霊:ちょっと待て酒寄、ピグミーってのはヨーロッパ人が呼んだもので、俺たちの部族は本当はバカっていうんだ

酒寄:えっ、バカ?

精霊:だからピグミーなんて呼ぶなよ、バカ族だ

酒寄:アフリカの存在なら『やし酒飲み』知ってるよね?

精霊:知ってるさ! 最高だぜ! 俺たちみたいなのがいっぱい出てくるんだ。楽しいんだよ

酒寄:どんな話なの

精霊:だからぁ、やし酒飲みが死者の国に行って造り手を呼ぶ話

酒寄:それだけじゃおもしろくないじゃん

精霊:だからその間がおもしろいんだって! 茂みに行ったり湖に行ったり。

 

そうして精霊が僕に読んでくれたのが、こんな話。

 

あるとき森に行ったやし酒のみが、出くわしたのが変な熊。

巨大で、収納力45人、直径約150フィートの袋に入れられて、どうやって出たらいいかわからないでいる。やし酒飲みは思う。「一体こんな大きな袋を担げるのは人間なのか、精霊なのか。皆目見当がつかない。」

 

精霊:こういう世界はね、もっとバカになって楽しめよ

酒寄:えっ、バカになれ?

 

こんなところで以上です。

 

(精霊とのトークだけでなく、ご持参されたカメルーンの儀式用仮面を着用しての踊りもご披露くださいました)

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選書:『フラワー・ベイビー』

(アン・ファイン著/墨川博子訳/評論社)

選者:三辺律子

主人公は14歳のサッカー少年・サイモン。勉強が不得意なために、学校では落ちこぼれクラスにいます。物語は、学校の「サイエンス・フェア」に、サイモンのクラスが発表するテーマを決めることから始まります。担任の先生は、落ちこぼれクラスなので、面倒くさいことはさせたくないと思っていて、生徒たちも好き勝手なことを言い出しますが、とりあえず決まったのが「児童発達」。ルールがあって、3週間、3kgの小麦粉(フラワー)の袋を赤ん坊に見立てて、育児日記や自分の態度の記録を付けなければならず、期間中は、小麦粉袋を清潔に保ち、一時も目を離してはいけない。

 

他のクラスの様子を見ると、発電機を作ったりしていて、楽しそうなので、簡単そうじゃん、とか思っていると、ちっとも簡単じゃないことを思い知るわけです。

 

小麦粉袋が配られて、「あいつの袋のほうがキレイだ」、「あっちの袋がいい」なんてセリフが飛び交うと、先生が「ちょっと問題があるからと、親が赤ん坊を送り返したら、どうなる?」などと刺さる発言をしたり、サイモンが袋をほったらかしてサッカーに行こうとすると、母親が「袋の面倒はどうしたの」。

 

こうして、子供たちは、大変さがわかってくるのですが、そのうち、「お金くれたらみんなの袋、預かるぜー」とビジネスを始める子も出てきたり、11日世話をしたところで、「俺、あの袋からなんも学習しなかったもん。絶対どんなことがあっても死ぬまで赤ん坊なんていらない」と、言い出す子も出てきます。

 

そんな彼らが3週間経過したところでどうなるか、楽しみに読んでいただきたいと思います。

 

子供だけでなく、大人にも読んで欲しいし、永田町辺りのおじさんたちにも読んでいただきたい本なので、大人向けとして推薦いたしました。

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選書:『狼少女たちの聖ルーシー寮』

(カレン・ラッセル著/松田青子訳/河出書房新社)

選者:柴田元幸

八戸から参加しました(住んでいるわけではありません)。「八戸ブックセンター」1周年記念でお邪魔していました。

ここは本当に素晴らしい書店なので、八戸に用事のある方は、いや、なくてもぜひお立ち寄りください。

 

本日ご紹介するのは、カレン・ラッセルというアメリカの女性作家の、最初の短篇集です。この人は、僕の知る限りでは、今、アメリカで活躍する作家の中で最も力量あるひとりで、30代半ばくらい。

 

ちょっと振り返ると、1990年代くらいのアメリカの女性作家は、割合に感性とか繊細さで勝負する人が多くて、それはそれで素晴らしいのだけれども、そういう傾向も、続くとだんだん縮小再生産的になって困ってたんですけど、2000年代に入って、ケリー・リンク、エイミー・ベンダー、ジュディ・バドニッツとかの、日常から書かれ始めて、幻想に入って、そこから現実を射出するような語り口が増えてきて、カレンはこの流れで現れた中でも優れた語り口を持つひとりです。

 

彼女が特に素晴らしいのは、幻想に行く前の、下地としての現実世界の描き方がしっかりしていること。

第一短篇集である本作には、彼女の育ったフロリダの、ワニが出てきそうな川のリアリティ、ディズニーランドのフロリダではないリアリティによる土台がきちんとあります。

第二短篇集の『レモン畑の吸血鬼』では、歴史的事実を細かくリサーチして作ったリアリティから、一気に幻想に飛ぶ、そこが素晴らしいです。

例えば富岡製糸場を題材にした作品は、『女工哀史』などの英訳をしっかり読み込んで、見事な幻想を描いています。

 

また、訳者が松田青子ってことも素晴らしい。カレン・ラッセルと松田青子って共通点があると思っていまして、松田さんは、土台として築くリアリティを、写真のイメージとか、我々が日常で使う言葉ひと言のイメージから始めて、そこから幻想に移行する手つきが鮮やかです。イギリスで、松田さんの短篇1本がブックレットになって出たんですけども、その解説をカレン・ラッセルが書いています。

 

こんな感じで、日本と海外の作家が、対等に訳しあったり、解説をしあったりしていて、とても嬉しいです。

 

PR: 第四回「日本翻訳大賞」の候補作は、読者の推薦があってからの選考になりますので、皆さま奮ってご推薦ください。

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選書:『失われた世界』

(アーサー・コナン・ドイル著/伏見威蕃訳/光文社古典新訳文庫)

選者:芹澤恵

とにかく読んで! 絶対おもしろいから!

 

主人公は、ワケあってどうしても冒険をせねばならぬ23歳の新聞記者。奇矯なことで有名な冒険家・チャレンジャー教授とともに、南アメリカ大陸へ失われた世界を求めて探検に行くことに。

 

なにしろ読み始めると退屈しているヒマがないという。

16章からなる本ですが、1章が短く、どんどんどんどんお話が進んでいきます。

もうひとつ、オリジナル版の挿絵が収録されているのですが、これがなかなかチャーミングで、大人になってから絵入りの本を読むのも、なかなかいいもんだなと思いました。

 

ふつう、冒険小説って「行って帰ってきて話が終わる」じゃないですか。実は、この小説には「帰ってきた後」がちょっとついていて、それがまたおもしろくできていて。私たちの想像力をすごくかきたててくれるものになっています。

 

絶対おすすめ、絶対退屈しない1冊です。これを読んで「おもしろいな」と思ったら、

ドイルなので、シャーロック・ホームズを読んでいただいてもよいですし、冒険のほうに胸躍らせた方には、『十五少年漂流記』や『ロビンソン・クルーソー』。

 

最初から最後まで、一気にどっぷり漬かって読んでいただくのがいいかなと思います。

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選書:『失われた時を求めて2』

(プルースト著/高遠弘美訳/光文社古典新訳文庫)

選者:高遠弘美

マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』全7篇のうち、第1篇『スワン家のほうへ』から、第1篇第2部『スワンの恋』と第3部『土地の名・名』を収めた、2冊目をご紹介します。

 

全篇通して、唯一3人称で書かれているのが第2部『スワンの恋』です。

 

スワンは語り手の藝術観に影響を与えただけではなく、恋愛や社交界、土地土地の魅力といった点まで、語り手の導き手になった人物です。社交界の寵児であるスワンは深い藝術的素養がある人物ですが、女性を唯一無二の対象として見るのではなく、藝術作品と結びつけずにはいられません。

そしてスワンは高級娼婦《ココット》オデットにどんどんのめり込んでいきます。それはのちに語り手がアルベルチーヌとの恋にのめり込んでゆくアルケティップ、祖型となります。「スワンの恋」にはさまざまな苦悩と悲しみと喜びと皮肉と抒情とユーモアが存分に描かれています。それがいつしか自身の人生の経験に結びつくことに読者は思い至ることでしょう。

また、スワンとオデットの「恋の国歌」となる架空の作曲家ヴァントゥイユのソナタの描写も圧巻です。音楽を言葉で表現するのは至難の業ですが、プルーストはそれを見事に成し遂げた小説家でもありました。絡み合うような文体もそのために必要だったのです。

 

(ここで第3部の末尾を引用)

『私が知っていた現実はもはや存在していなかった。スワン夫人が同じ時刻に、いつも通りの装いで来ないというだけで、アカシア通りは別のものになってしまう。かつて知っていた場所を私たちはいとも簡単に空間世界に位置づけるが、そこだけに属しているわけではない。それは当時の私たちの生活を形作っていた、互いに隣り合うあまたの印象の中の薄い一片にすぎないのだ。何かのイメージを回想するとは、何らかの瞬間を愛惜することにほかならない。家々も、道路も、通りもみな、はかなく逃れ去ってゆく。そう、悲しいことに、歳月もまた。』

 

以上です。

 

お知らせ:第6篇までの翻訳は終わっております。

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選書:『八月の暑さのなかで ホラー短編集』

(エドガー・アラン・ポー 他 著/金原瑞人訳/岩波少年文庫)

選者:田中亜希子

翻訳と読み聞かせの活動もしています。

 

今回は、児童部門の中でも、中学生向けということを考えて選んでみました。

編訳者の金原瑞人先生はYAで有名ですが、ホラーも大好きでいらっしゃるとのことで、そんな目利きの先生が選んだ13編のホラー短編小説集です。

 

エドガー・アラン・ポー、ロアルド・ダールなどの、中学生にもなじみのありそうな作家から、サキ、ダンセイニほか、短編の名手と呼ばれる作家による作品がそろっています。

 

例えば、アイルランドの劇作家、ロビンスンの「顔」。崖下の湖の水面下に浮かぶ美しい女の顔に魅入られた少年のお話。

イギリスのローズマリー・ティンパリの「ハリー」。語り手は「なんでもないものが恐ろし」く、どこにでもある「ハリー」という名にも恐怖を予感して……。

 

ホラーといっても血しぶきなどはない、幻想文学系のお話がメインなので、血が苦手な人でも大丈夫。また、中学生向けと紹介しましたが、岩波少年文庫なので、読書の好きな小学生が読み始めるのもありです。

ホラー短編小説入門として、大人にも最適ですので、幅広くお楽しみいただけると思います。

 

この本をきっかけに収録作家のほかの作品を読んでみてもいいですし、第2弾『南からきた男 ホラー短編集2』も出ていますので、そちらに進んでみても。

 

小中高校生用としてはもちろんのこと、ご自分用としても、ぜひお求めください。

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選書:『肩胛骨は翼のなごり』

(デイヴィッド・アーモンド著/山田順子訳/創元推理文庫)

選者:田辺千幸

 

これタイトル素晴らしくないですか? これだけで手に取ってしまいますよね。

由来は、主人公の男の子が、作中で「肩胛骨って、なんのためにあるの?」と問いかけて、母親と隣人の女の子が答えてくれた、同じ言葉です。この物語のすべてが凝縮されていると思います。

 

主人公マイケルは、両親と3人で平穏に暮らしていたのですが、生まれたばかりの妹に重い心臓疾患があると判明してから、家の中は暗くなり、学校にも行けなくなります。

そんな折、使われていない物置で見つけた「生き物」を世話することになって、始めはひとりで面倒見ているのですが、隣の女の子も一緒に看護していくうちに、「生き物」は回復し、ふたりに不思議な体験をさせた後、どこかへ消えていってしまいます。

 

ジャンルでいうと、YAファンタジーとなるかと思いますが、私はぜひ、大人に読んでほしいです。それも、心が疲れたとか、もうなにもかもいやになっちゃったな、というタイミングで。

 

訳の日本語がまた大変に美しく、子供でも読める言葉で書いてあっても、決して子供だましではなく、ひとつひとつの言葉が吟味されている、読んでいてとても気持ちのいい作品です。

 

ひとりでも多くのひとに読んでほしいです。よろしくお願いします。

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選書:『キオスク』

(ローベルト・ゼーターラー著/酒寄進一訳/東宣出版) 大人向け

選書:『パパは専業主夫』

(キルステン・ボイエ著/遠山明子訳/童話館出版) 子供向け

選者:遠山明子

1冊目『キオスク』。

主人公は17歳の男の子・フランツ。舞台は第二次世界大戦直前のオーストリア・ウィーン。

田舎からウィーンに出てきた主人公は、キオスクに職を得て働き始めます。青春ものですが、時代背景がナチズムの台頭めざましい頃ということもあり、切ない物語です。

 

フランツの成長を促す年上の男性として、キオスクの主人と、常連客のひとりであるフロイトが登場します。

キオスクの主人は、とにかく「新聞を読め」と言います。当時の新聞社は、社ごとに政治信条や政党批判から擁護まで、それぞれ個性豊かな主張を持って発行されていたので、時間を見つけては、全社の新聞をマスターしろ、と。客の顔を見て、この社の新聞をおすすめ、くらい勉強しておけ、という意味もあったし、およそ手に入る情報から、多種多様な主張を受け取れること、発信できることが意味する、精神の自由を持つことの大切さを教えてくれます。

 

そのうちフランツは、3つ年上の(フランツにとって「歯のすき間が世界一カワイイ」)女性に恋をするのですが、キオスクの主人は、「恋のことなんか全然わからない」ひとで

(それは彼が第一次世界大戦で片足を喪い、青春も同時に喪ったという過去を持っていたからなんですが)、彼の代わりにフロイトが、店の常連であることからつながって、恋に悩める主人公の恋の指南役になります。

 

だからといって、主人公の恋がうまくいったりはしないのですが、フランツとフロイトの間に、年齢を超越した友情が育まれます。

ふたりのやりとりも、ユーモラスで読みやすく、妙な遠慮などがなく、率直な対話になっているので、素晴らしい作品です。

 

2冊目『パパは専業主夫』。

もう出版されてから30年くらい経ちますが、ひじょうに心に残っている作品です。ストーリーは「役割交換」と言ってしまえばそうなんですが、2人目の子供も大きくなったから、と、母親が職場復帰しようと思っていた矢先、3人目ができてしまい、また職場復帰が遠のいてがっかり。

それを見た教師の父親は、自分が育児休暇を取るから、と家事をかってでました。

実は、家事と育児は片手間に、今まで自分がやりたかったことを、この休暇で存分に楽しもうという魂胆だったのですが、とてもとても、そんな簡単なことではなくて……当然、問題だらけ、ハプニング続き。

 

この顛末を語るのは12歳の女の子。

お母さんがしたいことできないでいたり、夢の実現の足かせになっているのは、パートナーである夫(子供の父親)の意識だったり、周りの目だったりのせい、と思っていたのですが、根本的な原因は、お母さん自身の意識にあるらしい、ことに気がつきます。

母親「らしく」、よき妻とは「こうあるべき」、といった固定観念にとらわれているためにできない、そういうケースも多々あるとわかっても、それがなかなか変えられない、というのが印象的です。

 

また、語り手の少女自身も、好きな男の子に女の子「らしく」見られたいと思っています。

普通の家の普通の女の子に見えてほしい、パパが専業主夫してるなんて変に思われないかしら、と。でもいろいろあって心が通い合っていきますが、書かれてから30年なのに、この本ニーズがあって今でも売れています。喜ばしいことですが、反面、どうして今でもおんなじ問題?って思います。

昔はこんなことが問題だったんだね、もう古い話だよね、って、言える時代になればいいなと思います。

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選書:『ぺちゃんこスタンレー』

(ジェフ・ブラウン 文/トミー・ウンゲラー 絵/さくまゆみこ訳/あすなろ書房)

選者:ないとうふみこ

これ、けっこうぶっ飛んだお話で、スタンレーくんがすやすや眠っていると、ベッドの上に掲示板が倒れてきて、ぺちゃんこになってしまうのです。

(日本だったら『ど根性ガエル』さながらの惨事)

 

第一発見者である弟くん:うっわーっ、すっげぇー! お父さん、お母さん、ぶったまげたことになってるよー!

お母さん:あら、まあ

お父さん:まるでパンケーキみたいじゃないか。なんてこった!

続くお母さんのセリフがまたひどいんですけど、「とにかく朝ごはんを食べてしまいましょう。それからスタンレーをお医者さんに連れていかないと」。

こんな感じでツッコミどころ満載なんですが、ツッコミを入れる暇もないほどテンポよく進んでいく、楽しいお話です。

 

ぺちゃんこになった体を活かして、スタンレーくんは、弟に糸を付けてもらって凧揚げの凧になったり、お母さんが排水口に指輪を落としてしまって困っていると、糸を結んで自分が潜っていって拾ってきたり、薄い体ならではの大活躍をします。

 

字も大きくて、絵もたくさん入っているので、「読み聞かせ」から「ひとり読み」への移行タイミングで読むのにおすすめです。

ぜひ、ご自身のお子様に、近所の「そろそろひとり読み」のお子様に、

クリスマスプレゼントで買ってあげてください。

 

そうそう、スタンレーくんはニューヨークに住んでいるのですが、すごいことをヒラメキます。カリフォルニアにいる友人に会いに行く際、ぺちゃんこなので、航空便(格安!)で送ってもらえばいいって。みんなうらやましいですよね。それで、アメリカの学校では「スタンレー・プロジェクト」といって、『ぺちゃんこスタンレー』を読んでから、スタンレーくんのペーパークラフトを手作りし、手紙に添えて遠くのお友達に送って、そちらの様子を教えてもらう活動もあります。

 

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選書:『さよならのあとで』

(ヘンリー・スコット・ホランド著/(訳者 匿名)/夏葉社)

選者:永田千奈

これは詩の本です。海外文学=小説、と思われがちですが、実際は、もうちょっと広くて、戯曲、詩、ノンフィクションなども文学に含まれています。去年はボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞したことから、歌詞もまた文学だということがおわかりいただけると思います。

 

詩のいいところは、短いです。

このご紹介の時間(3分)に、全部暗唱できるくらいです。

次に、登場人物の名前を覚える必要がございません。

よほど特別な、歴史上の人物を讃える叙事詩でもなければ、名前は出てきません。大抵は「わたし」と「あなた」で構成されています。そういう意味では、詩はすごく手紙に近いものではないかと思っています。

 

『さよならのあとで』も手紙のような、「死別」についての詩です。

自分にとっての「もう会えない大事な人」に思いをはせつつ、お読みいただければと思います。

 

「死はなんでもないものです。わたしはただ隣の部屋にそっと移っただけ。

私とあなたはかつて私たちがそうであった関係のままで これからもありつづけます。

私のなまえがこれまでどおりありふれた言葉として呼ばれますように。

私の名前が何の努力もいらず自然にあなたの口の端にのぼりますように」

 

この本を出版した夏葉社さんは、社長の島田さんがおひとりで運営していらっしゃる、ちょっと不思議な出版社で、島田さんご自身、この詩がとても好きで、これを本にしたいがために、出版社を立ち上げたという、奇特な方です。また、訳者が「匿名」となっているのは、とある方が訳して遺されたものに、編集者であり出版人である島田さんが加筆しているので、訳者不詳のような、こうした形式になっているそうです。

 

かわいい挿絵も入っておりますので、ぜひお手に取っていただければと思います。

 

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選書:『誰もいないホテルで』

(ペーター・シュタム著/松永美穂訳/新潮クレスト・ブックス)

選者:西崎憲

シュタムはスイスの作家で、ものすごく静かな作風の人です。

作家には、足して書いていく人と、引いて書いていく人といるんですが、シュタムは後者になると思います。

とても引き算の上手い書き方で、書かないことで語る感じです。引き算の作家といえば、チェーホフがいますが、そういう、想像させる作家と言えます。

 

ジャンルとしては、奇想小説になるかと。

 

主人公が訪れたホテルは、なんか荒れてる気配で、予約してるのに誰もいなくて、やっと人が出てきてくれたと思ったら、とっても面倒くさそうに応対する女性で、どうにかチェックインしたものの、荷物は自分で運んだし、出された食事は缶詰で。

さらに、朝、顔を洗う段になったら、ホテルのそばに川があるからそこで洗う始末。

いったいどうなってるの?

 

とまあ、こんな不思議なお話です。

 

音楽に例えると、シュタムは「フルートのような」作家です。

(ここでフルートの演奏を披露してくださいました。)

 

 

言葉で説明もできるんですが、こうした感じ方、表し方もあるかなと。松永さんの訳も大好きで、機微をとらえています。

 

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選書:『ネジマキ草と銅の城』

(パウル・ビーヘル著/野坂悦子訳/福音館書店)

選者:野坂悦子

この作品は、1964年に発表されていて、「オランダ児童文学の古典」と言われています。

日本版では、村上勉さんの絵が入っていて、装丁は名久井直子さん。スリーブ仕様の素敵な本です。

 

書き出しは海から始まって、城に至ります。その銅の城には、王様と野ウサギしか住んでいません。寿命の尽きかけた王様の命を救うために、まじない師が呼ばれ、薬草であるネジマキ草を探しに出かけます。帰りを待つ間、愛する王様に少しでも長生きしてもらおうと、動物たちが王様を見舞いに訪れて、様々な物語を話し始める展開が、「枠物語」の体裁になっています。それがやがて、王国の謎を解き明かす展開に至ります。

 

ナンセンスなお話あり、愛のお話あり、いろいろな物語があるのですが、どのお話にも二度と帰ってこない時間への憧憬が感じられ、読むたびに、ちょっと心が痛みます。それは、子供時代が二度と帰ってこないことと、関係があるのかなと思っています。

 

児童文学、子供向け、とご紹介しましたが、大人の方にも読み応えがあり、ひとつずつ、声に出して読んでみるのとまた違う発見があるかもしれません。

 

ありがとうございました。

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選書:『あの素晴らしき七年』

(エトガル・ケレット著/秋元孝文訳/新潮クレスト・ブックス)

選者:古市真由美

 

中東のイスラエルの本をご紹介します。

選んだ理由は、今年読んだ中でいちばんよかったと思ったことと、表紙の真っ黄色なところが、店頭でものすごく目立つこと。すっごくパワフルで明るくって、惹きつけられて思わず手に取ってしまう。

中身も、表紙の印象のとおりです。

 

これは作者が、息子が生まれてから7つになるまでの7年間を綴ったエッセイ集です。

息子との日々、父親としての振る舞い、作家としての活動などの記述の中には、公園に子供を連れてきた親たちの会話が「将来、子供を軍隊に入れるかどうか」だったりする、シリアスなテーマもありますが、ユーモアがあって軽妙な笑いがもたらされます。

 

居酒屋で隣に座った人がたまたまケレットさんで、

えーあなた作家なのー? おもしろいお話いっぱい聞かせてもらっちゃって、楽しかったなー、また飲みましょうよケレットさん。

……みたいな感じです。エッセイ集なのに、どこか短編集のようなおもしろさがあります。

 

この7年の間に、ケレットさんはお父さんを亡くすのですが、そのタイミングで、息子さんに、「父親っていうのはね、息子のことを守るものなんだよ」って言ったら、息子さんから、「おじいちゃんが死んじゃって、これからは誰がパパを守ってくれるの?」と訊かれるエピソードがあります。私、自分自身の経験も重なって、もう号泣しちゃって。

この問いに対するひとつの答えが、本の中で示されます。それを読んで、私も同じことを経験したなと思いました。

 

この本を読むと、きっと誰でも、ケレットさんの物語は自分自身の物語だな、と感じると思います。テレビで報じられる遠いイスラエルの様子が、もう、ひとごとではなくなります。そこにいる人たちが、もう他人じゃなくなります。

遠い国の、知らない言葉で書かれた本も、まちがいなく私自身、私たち自身の物語でもある。そのことを、軽やかなユーモアで自然と感じさせてくれる本です。

遠くの人たちが書いたものに手を伸ばしてみる、はじめての1冊に、ぴったりだと思って選びました。

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選書:『観光』

(ラッタウット・ラープチャルーンサップ著/古屋美登里訳/ハヤカワepi文庫)

選者:古屋美登里

ラッタウット・ラープチャルーンサップ、翻訳者と担当編集者しか正確な発音ができない名前の彼は、タイ人です。

 

アジア文学っていうのは、全然西洋とは違っていて、小説の中のムードも、文化の背景も別物なんですね。

アジア人っていうのも、我々は、同じアジアということで親しみを感じる反面、文化から言語から全く違う、でも、共通な部分もあって。

この共通部分と違う部分を知る、という読み方ももちろんありですが、もっと単純でいいと思います。

 

この短篇集は、10年前に翻訳されました。ラッタウット君がまだ20代だったころの作品です。観光国であるタイに暮らす人々、少年少女の物語で、彼らは貧しいのですが、そこにはちゃんと「誇り」がある。この「誇り」、「尊厳」といったものを、そのものを示す言葉を使わずに語る手腕がとても優れています。

 

内と外、内側から見るタイ、観光客として外側から見るタイ、ふたつの見方を、小説の中にどう織り込んでいくか、というのは大きな問題ですね。

あと、小説を書くことと読むこと、相互の行為の豊かさを感じられる作品でもあります。

 

蛇足ですが、作家の河野多惠子さんがこの作品をいたく気に入られて、「この7つの短篇1篇1篇が、芥川賞候補になったら、全作、即受賞」とおっしゃったというエピソードがありまして、当時の『文學界』編集長が、若手作家にそれを大いに宣伝してくださったことで、

7、8年くらい前の新人作家はみんなこれを読んでいるっていうのが、自慢です。

 

PR:『肺都』(アイアマンガー三部作・完結)出ました! 館→町→都、と展開する壮大な一族の物語です。

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選書:『まっぷたつの子爵』

(イタロ・カルヴィーノ著/河島英昭訳/岩波文庫)

選者:柳原孝敦

カルヴィーノはイタリアの作家ですが、生まれがキューバなので、ラテンアメリカの作家だと思っています。

 

今日ご紹介するのは、いちばん最近の文庫ということで『まっぷたつの子爵』にしました。

 

戦争に赴いた子爵が、砲弾で「まっぷたつ」にされるも一命をとりとめ、半分になって領地に帰ってくる。

そうして起こる騒動の顛末を、子爵の甥である「ぼく」の視点で描く小説です。

 

 

帰ってきたのは右半分。これが徹底的に悪辣な人間で、

・毒キノコを「美味しいぞ」と勧める

・罪の軽い者を20人も縛り首にする

・城に放火し、乳母を焼き殺そうとする(失敗)

 

ところが遅れて左半分の子爵が帰ってくる。

「左の」という形容詞は、大抵の国で「邪悪な」の意味があるんですが、ここでは徹底的に善人です。悪しかしない半分と、善しかしない半分、同じ顔して言うこと為すこと真逆の子爵に振り回される、「ぼく」たち領地の人々については読んでください。

 

嫌いな食べ物を食べたくないからと木にのぼったっきり、一生を樹上で過ごした『木のぼり男爵』、鎧兜の中身は空っぽ『不在の騎士』とで三部作です。三作とも面白いです。

 

ありがとうございました。

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選書:『ぼくが死んだ日』

(キャンデス・フレミング著/三辺律子訳/創元推理文庫)

選者:吉澤康子

おすすめの理由

・薄くて軽くて持ち運びしやすい

・構成が10のエピソードでできている

・それぞれの物語に趣向が凝らされている

 

16歳のマイク少年が、夜道を車で走っていると、前方にずぶ濡れの女の子が現れます。

その子は56年前に亡くなっている、幽霊だとわかるのですが、彼女の墓へと向かったマイクは、そこで、自分と同じ10代の少年少女たちの幽霊から、「わたしたちの話を聞いて」と、死んだいきさつを聞かされます。

 

語り手は幽霊、ですが、現実に生きてきた子供たちそのものの姿が描かれていますので、おどろおどろしいこともなく、怖いのが苦手な人もOKだと思います。

幽霊たちの享年こそ共通するものの、生きていた時代はまちまちという設定によって、19世紀末の開拓時代から、万博開催、アル・カポネまで、話題も豊富です。

 

読後感がよいので、大人から子供まで、作中のティーンエイジャーと同年代の子も、幅広く楽しめます。

 

PR:『コードネーム・ヴェリティ』をティーンつながりで宣伝します。続編も出ますので是非お読みください。

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選書:『誰も知らない世界のことわざ』

(エラ・フランシス・サンダース著/前田まゆみ訳/創元社)

選者:和爾桃子

和爾桃子と申します。姓はけだもの、名はくだものです。よろしくお願いいたします。

今回の選書は、とても読み応えがあるので、「はじめて」の方、と言われて、たいへん違和感を禁じ得ないくらい、ボリュームがたっぷりあったんですね。

なので、そこまで行き着けそうにないという心配をお持ちの方は、補助スロープ的に、ぜひこちらをお試しください。

 

と言いますのは、海外文学は一般の方になじんでいただける機会が少なく、なおかつ、いろんな言葉や事物が出てくることが多いのですけれども、根底に、こうしたことわざとか、民族が長い時間をかけて積み重ねてきた知恵というものがあるんですね。

こうした知恵は考え方の土台であり、薄まることはあっても消えることはないので、まずはこれをきっかけに海外になじんでいただければ。

 

些細なことですが、そういう些細の積み重ねが、ほんのちょっとのきっかけで日常のスパイスになったり、場合によっては人生を変えてしまう、こともあります。そんな変化をもたらすきっかけに、この本がお役に立てたら、とても嬉しいです。

 

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単行本に世界初収録となる作品も1本ありますので、お買い求めください。

原文テキストはもう入手不可能な112年前の新聞ですが、全文をブックカバーに仕立てて今回の購入特典にお付けしました。版権は切れていますのでご使用は自由です。ぜひお買い求めになって、貴重な資料保存にご協力ください。

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採録:飯島世梨   サイト更新:澤田亜沙美